講演「将棋と遊び」 2006.09.17  「将棋と遊び」は、伊藤先生が羽生さんに話題をふってそれを羽生さんが応えていく形 式。さすが大学の先生、話題はプレゼンテーション資料で会場大画面に大写し、何がテー マかよくわかりました。ただ、ちょっと時間におされていたからか羽生さんがお話してい るときに大画面が次の話題に進んでいることもありましたがそれはご愛嬌ですね(^^;  話題1「将棋との出会い」では、1.はじめての将棋との出会い、2.のめり込んだ頃 、3.子供と大人の違い、4.子供の頃の学習の意味、5.将棋を取り巻く環境、という 構成。話題1では羽生さんの子供の頃のお話、高木君とのお話ですね。羽生ファンなら知 っていないとダメですよ。「ヨーヨーとかルービックキューブとか流行したものはそれな りにやりました。将棋は、勝敗がはっきりつくところ、そして1つ基本戦法を覚えると幅 が広がる面白みなどがありました。」羽生さんは子供の頃の学習の意味を知る人でもある 。「邪心がなく次の一手を真っ直ぐ指している。論理より感覚を磨く10代の時期は重要 だと思います。」理屈より先に感覚で覚える”言葉”に例えるとわかりやすいテーマです ね。将棋を取り巻く環境には御馴染み高速道路論。しかしご自分の世代、遠回りしたメリ ットは少ないと言う。一点、「ただ新しい問題を解決しようとする力はついたかもしれま せん。」    話題2「思考法」(どのように考えるか)では、1.どんな風に次の一手を考えるか? 、2.どれくらい先を読むか?、3.大局観について、4.相手モデルと思考、5.長期 的思考という構成。羽生さんは中盤が難しいけど一番力を入れたいところと応える。「序 盤から中盤にかけては、何を目的にしてどのように進めるか?わからないと難しい。」序 盤は結構定跡化されている。詰め将棋はコンピュータは得意、プロよりも速くて正確とい うほど論理的。羽生さんはそれまでの筋道を大事に考える大局観、相手の出方で臨機応変 に動けるか?広く浅く何を指されてもビックリしないことが大事と主張する。ここができ ればコンピュータ将棋も強くなるんでしょうねぇ〜。相手モデルと思考では、昨日の王座 戦第2局の棋譜を激指で再現して羽生さんの解説。かなり駆け足でしたが将棋ファンには 面白かったです。  話題3「学習法」(強くなるには?)は、1.強くなるには?、2.羽生さんの勉強方 、3.日ごろの勉強方、4.オフの過ごし方、という構成。羽生さんが語る将棋を強くな るための3要素は、@将棋の基本:定跡や手筋を覚えること、A実戦を経験して未知の局 面への適応力をつけること、Bミスの癖を見つけて修正していくこと。羽生さんの勉強法 はすでにみなさんご存知ですね。@簡単な詰め将棋、A棋譜鑑賞、B思いついた手の研究 。それ以外では棋士同士の研究会ですが、最近は忙しくて研究会はしていないようです。 研究会はリスクのある手を試し、いろいろなタイプの棋士といろいろな見方を述べていく ことで、多方面から解析できるのがメリットだそうです。オフは、根をつめすぎると煮詰 まるので、ボーっとするよう心がけているようです。オンとオフのスイッチ、ですね。自 分も日曜日はできるだけボーっとするようにしています(笑)  話題4「将棋の面白さ」(ゲームとしての将棋)は、1.ゲームとしての将棋、2.他 のゲームとの比較、3.将棋と創造性、4.駆け引き、コミュニケーションという構成。 羽生さんは、世界の各地で将棋のタイトル戦も行い、またチェスのオープントーナメント へ参加するグローバル人です。将棋へのゲーム感は、他のゲーム感、特にFM、次期IM であるチェスとの比較によってより具体的に語ってくれます。将棋以外は引き分けが勝負 の結末として厳然とある事実。将棋は千日手などあるが指し直して勝敗を決める。また、 駒の再利用は日本文化、将棋特有で、このことでチェスや碁と違い、終盤になっても場合 の数が減らない。そして先手後手論争。先手にゲームの主導権はあるが有利にはならない とのご意見。しかし長い歴史の中で反則となった二歩があるとするならば、先手有利だろ うと語ります。歩を重ねて行けば・・・うん、確かに。創造性には、各人のあいまい性の評 価が異なることで勝負が微妙なものとなり、それが棋風となって現れ、その手順が新手を 生むのだと。ふむふむ。  話題5「勝負と真理」(将棋以外の話)は、1.ゲンをかつぐか?、2.好調不調の心 理、3.相手の息遣い(相手の好調不調)、4.勝負手、駆け引き、5.盤外戦術、とい う構成。ゲンは気にし出すと止まらないのでかつがない。でも周囲の人が気遣うと語られ る。例えばタイトル戦を行う地方の旅館で羽生さんの過去の成績が悪いと周囲が本人より も気にされるとのこと。勝てないときは2タイプあり、不調なのか実力がないか?でその 見極めが難しいとのこと。実力がないなら補充しなくてはならないから。うーん、羽生さ んに実力がない状態というのがあるのか?ただ驚いたのは「今はプロでも参考になる本が 出版されている。自分も他の棋士が出版した本を買うことはあります。」でしょうか。ま た相手の好調さが自分の調子に影響することも多いと語られる。駆け引きをテーマに振ら れた時は会場の中だるみを感じてか、「昔、大先輩が駒を並べるときに飛車と角を逆に置 いたことがありました。」でも「年をとってもうろくしちゃったのかな?とか、ま、そん なわけはないですけどね。」とこんなジョークも。  話題6「新しい技術と将棋」(将棋の未来)では細かい章立てではあったものの時間が 切迫しコンピュータ将棋に焦点を絞った構成に。毎年ゴールデンウィークでかずさアカデ ミアパークで開催されるコンピュータ将棋大会。この大会について「周りでとやかく言っ てもコンピュータには何も影響ないからいいですね」(^^;とは羽生さん。コンピュータ将 棋の感想を求められると「2、3年前は伸び悩んでいる感じでしたが、ここ数年でブレー クスルーがあったかと。ソフトもハードも驚異的な進歩を遂げていますね」伊藤先生曰く 、「最近では毎年レーティングが100ずつ上がっているんです。2011年にはプロの 名人級の強さになっているんではないかと」「あっ、そうなんですか?」「羽生さんはも っと上かもしれませんけど」「いえいえそんな」いや、きっとそうでしょう(^^)コンピュ ータ将棋については続けて「見たこともない変化球を投げてくるんです。それがなかなか 打ち返せない。生理的にこれはないだろうと人間同士の対局では切り捨てられているとこ ろなんですよね。」  伊藤先生から羽生先生にいくつか質問タイム: Q:人間vsコンピュータという縮図になったときは取り決めはいかがでしょう? A:持ち時間は少しずつ長くしていくのがいいと。 Q:日常でもコンピュータを使いますか? A:将棋の局面検索はよく使います。 Q:コンピュータ将棋が人間と同じくらい強くなったら? A:助手みたいな感じになるでしょうか?あと例えば異邦人のように空白のところを考え てくれることになるんでしょうか?あくまで自分が最終的に結論出して。 Q:コンピュータを傍らに置いて対戦するアドバンスドチェスというのがありますが? A:ふつうのチェスでも新手チェックをコンピュータにかけるのはもう当たり前なんです 。だから、現時点でも将棋でそういう大会があっても面白いかもしれないですね。日本将 棋連盟では最近携帯電話の対局場への持込禁止を検討しています。日本古来から性善説が あってそれで将棋は今でも成り立っていると思いますが、問題となる前にそのような取り 決めが必要になってくるかもしれません。 Q:何かこの新しい技術があったらというのはありますか? A:考える前にもういろいろなものが進んでいるので何とも言えないですね。でも、例え ばそういう文明の利器にはどこまで依存するかだと思うんです。きっと自分の力と錯覚し かねないので。 ここからは会場のQ&A: Q:将棋のプロ棋士であることは日常生活で役立つことはあるか? A:将棋で論理的に考えていても日常生活では別々の世界と考えています。みなさんが思 っているほど棋士は論理立ててはないんですね。ギャップを感じることが多々あります。 Q:将棋のエンターテイメントについてプロとしてどう考えているか? A:プロ野球:ゴジラ松井のホームランは誰が見てもホームランですよね。将棋は誰が見 ても好手かというとそう言い切れないんです。あと、最後まで勝敗がわからない緊張感が ある。これらの点をアピールできるようになっていければいいですね。 Q:局面理解の膨大な量をどのように覚えているのか? A:目かくし将棋というと想像しやすいでしょうか?盤面をだいたい4分割くらいの塊で 覚えています。また駒の動き、そして自分の棋風による制約があるので覚えられます。( 羽生さんの記憶の実験をしているスライド) Q:実際の駒とコンピュータについてはどのように考えられるか? A:コンピュータで局面検索、棋譜鑑賞しても自分の興味をもったところは、改めて立体 的な駒でやってみる、手を使って覚える、時間を長くかける、が自分の中では実力をつけ るやり方です。ただ、生まれたときからパソコンが当たり前の世代が出てきたとき、まだ 今はいないですが、実際に手を動かさなくてもコンピュータ上だけで経験を積むことがで きるかもしれません。 いつもながら羽生さんの講演は聞いていて飽きません。あっという間の1時間でした。